2019年3月15日、国土交通省は「Society5.0」実現の場を創出する目的で、スマートシティのモデル事業を公募した。国土交通省では、これまで、我が国においては、政府各本部・省庁が、所管分野を中心に個別にモデル事業等を実施してきたが、各事業の連携や分野間のデータ連携等の面で課題があったため、今後、政府のスマートシティに係る各事業の連携や分野間のデータ連携等を強力に推進するため、関係本部・省庁が連携した取組を推進するとしている。(引用:国土交通省 資料「府省連携したスマートシティ関連事業の推進について」)

スマートシティとは

スマートシティとは、「都市・地域の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」とされている。(国土交通省 資料「スマートシティについて」)

官民の様々なデータを収集・見える化し、一般交通・物流、都市環境・住環境、エネルギー、気象・防災・減災など、各分野のシステム構築を新技術を取り入れながら発展させ、各地域を分野横断的に最適化していくことが、これからの都市または地区には必要との考えだ。

そうしたスマートシティにおける分散型エネルギーの在り方を考えてみた。

分散型エネルギーとは

「分散型エネルギー」とは、比較的小規模で、かつ様々な地域に分散しているエネルギーの総称であり、従来の大規模・集中型エネルギーに対する相対的な概念をさす。(引用:資源エネルギー庁 資料「分散型エネルギーについて」)

「マイクログリッド/ Microgrid」という単語がある。アメリカ合衆国エネルギー省の定義では、以下のとおりとなる。

A group of interconnected loads and distributed energy resources within clearly defined electrical boundaries that acts as a single controllable entity with respect to the grid. A microgrid can connect and disconnect from the grid to enable it to operate in both grid-connected or islandmode.(引用:The U.S. Department of Energy “Microgrid Initiative”)

要は、グループ・地域単位で独自に構築した自律的エネルギー供給網のことであり、「分散型エネルギー」の具体的な仕組の例と言える。必要に応じて他のグリッドと接続して相互にエネルギーを供給しあったり、逆に、他グリッドとの接続を閉じて、自グリッド内のみでエネルギーを運用したりする。「スマートグリッド/ Smart Grid(エネルギーの需給をICTにより制御したエネルギー供給網)」も、マイクログリッド(およびマクログリッド)に含め得ると解釈される。

エネルギー消費の傾向

天然ガスのさらなる普及のきっかけとして、筆者が大いに期待を寄せている『日露天然ガスパイプライン』の敷設プロジェクトであるが、仮に敷設が実現した場合、敷設ルート上の地域経済が活性化し、また、電力・ガスの小売自由化も相まって、個人・法人のエネルギー利用の指向にもより顕著な変化がみられるようになると見ている。

上記でいう変化そのものについては、その兆候がすでに複数表れている。代表的な事例としては、日本ロジテック協同組合が挙げられる。

日本ロジテック協同組合は2008年設立、2010年から電気の小売事業を開始、2015年3月時点で売上高555億円。再生可能エネルギー(特に太陽光)の利用とその打ち出しに積極的だった。順調に顧客数を伸ばしたが、太陽光等発電量が少なく不安定な電気を卸取引所等経由で仕入れて小売することが主であったことで、需要に対して供給が追い付かなくなり、また、電気の仕入れや賦課金支払いに悪影響となるような廉価な価格での電気小売を行っていたこともあって、資金繰り等の悪化から、2016年に倒産。

同組合が、「再生可能エネルギーを使っている」というキーワードを呼び水の一つとして顧客を増やしたように、食品小売(地方の六次産品等)などの分野では当たり前のように行われている商品の付加価値化、商品へのストーリー性付与、商品の開発思想やコンセプトの発信、これらが、電気・ガスを利用する消費者に重視され、より強く求められる時代が来ている。

エネルギー利用指向の変化

分散型エネルギーの利用指向について、上図のとおり、個人・法人/自治体軸と単独利用・コミュニティー利用軸を設定し、4つの領域に分類してみた。着目していただきたいのは【コミュニティー利用】の、特に【3】である。

町内会・自治会・その他地域グループ等が域内での発電や電力小売を行い、限られた域内資産の域外への流出を抑えることで、同滞留資産の域内での利用余地が新たに生まれる。【コミュニティー利用】の最大の特徴は、各地域の一部の公共サービス等を税金によらず維持でき得る可能性がある点だと言える。実際にそのような時代が来ることを想定した取り組みは、エネルギー分野に限らず、日本各地で見られている。

地域グループが、金融機関等から独自に融資等を受け、小型~中型の天然ガス焚きコージェネレーション設備を導入し、発電した電気や、発電に際して発生する熱エネルギーを自ら使う。余剰分は別法人を立ち上げるなどして、隣接地域住民などに小売する。戸建住宅・集合住宅を問わず、単独世帯での発電、電力・熱利用は難しくても、地域等の単位でなら分散型エネルギー利用のハードルも下がるだろう。こうした事例が小地域>中地域>大地域の流れで広がって相互接続することで、マイクログリッドを形成していく。化石燃料中もっともクリーンで、エネルギー効率がよく、価格も廉価になり得る天然ガスは、再生可能エネルギーやICTの新たな技術などとミックスする形で地域のエネルギー利用シーンにより深く溶け込んでいくのではないかと考えている。

なお、【4】については、【3】と同様の考え方に基づくと、例えば、JR四国・JR北海道の赤字圧縮(ないしは四国・北海道地域の鉄道インフラ維持)やその他の地域の課題解決に資するものであり、下記のような公益的な事業案が複数考えられるが、これについての説明は別の機会としたい。

地域でのエネルギー供給事業の展開案1(PDF、会員もしくはスポンサーのみ閲覧可能)

P2Pな発想

P2P/ 分散型エネルギー

P2P(Peer to Peer:ピア・トゥー・ピア)とは、接続されたコンピュータ同士が、相互に通信し合う通信技術の1つであり、Winnyなどのファイル共有ソフトや、ビットコインなどの仮想通貨でも使われている仕組み(イメージは上図のようなもの)である。スマートシティを考える上では、分散型エネルギーの分野においても、*同様の仕組みが必要と思われる。(*注:ここでは地域間の相互的エネルギー融通形態を意味し、エネルギー需給管理へのDLT利用等とは別の扱いとしている)

一例であるが、何らかの災害が起こった際の想定として、医療分野のレジリエンス(=災害によるインフラへの被害に対する回復・復旧力、主には、いかに日常生活を早く取り戻せるようなインフラ環境を事前に整備できるかを意味する)は特に重要視すべきものである。仮に医療施設で既存のエネルギー供給系統もしくは独自のエネルギー設備に障害が発生した場合、速やかな医療対応ができなくなる恐れがある。そのため、重要度の高い施設は、もしもの時には機能の生きている隣接グリッドと接続し、必要なエネルギーを、必要に応じて相互融通できるようインフラを整備しておくか、もしくは閉鎖型グリッドとして機能しうるための対応策を十分に練り、日ごろから一部でも運用しておく必要がある。

分散型エネルギーを活かすスマートシティとは

ここで国土交通省のスマートシティモデル公募の話に戻るが、自治体がスマートシティを考える際は、閉鎖型マイクログリッドの形成を前提にした取り組みを進めるのではなく、レジリエンスを意識して、隣接する、少なくとも3以上の都道府県/ 市区町村が共同してグリッド形成を目指し、分散型エネルギーの利点の最大化を図るべきと考える。

都市または地区の機能の欠損リスクを少しでも低減し、万一の時に相互扶助できるシステムを近・中・遠距離それぞれの要素に合わせて整えておくことは、災害の多い我が国においてとても大切なことである。個人・法人・自治体を問わず、既存のエネルギー網と合わせて、今後、新たな発想によるエネルギーインフラの整備が進んでいくことを期待したい。

【 引用・参照元 】
国土交通省 | 「Society5.0」実現の場を創出へ!本日より4月24日まで、スマートシティモデル事業を公募します
経済産業省 資源エネルギー庁 | 長期エネルギー需給見通し小委員会(第6回 平成27年4月10日(金))
The U.S. Department of Energy | The U.S. Department of Energy’s Microgrid Initiative(PDF)
The U.S. Department of Energy | Smartgrid.Gov