2020年1月2日付のForbes及びSputnikにて、キプロス・ギリシャ・イスラエルの3か国が、パイプラインによる欧州向けの天然ガス輸送計画を推し進めることに合意した旨、報道された。

東地中海パイプライン(Eastern Mediterranean pipeline もしくは単に EastMed)は全長1900km、地中海東部のLeviathanガス田 並びに Aphroditeガス田から、最大水深部3000mの地中海を抜けて、イタリア経由でヨーロッパ各国へ、年90~120億立米の天然ガスを輸送するとしたプロジェクトである。敷設にかかる費用は約60億ユーロ。2020年1月2日、関係国となるキプロスのアナスタシアディス(Nicos Anastasiades)大統領、ギリシャのミツォタキス(Kyriakos Mitsotakis)首相、イスラエルのネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相が、ギリシャのアテネにて開催されたセレモニーに出席し、東地中海を横断する同パイプラインを敷設することに合意した。パイプラインは、ギリシャの国営企業DEPAと、イタリアのEdison社(仏・Électricité de France所有)が50%ずつ出資するIGI Poseidon SAが開発することになっている。同パイプラインについては、2019年、テルアビブにて、天然ガス輸出用のインフラを整備する旨の覚書が先だって締結されていた。

本件については、トルコとの間でセンシティブな問題をはらんでいる。トルコは、キプロス島北部を実効支配する北キプロス・トルコ共和国も、キプロス島近辺の天然ガス田(一部、キプロスと北キプロス・トルコ共和国の両方の実効支配域にまたがっていると見られる)の権益を有しているとの立場であり、関係国の批判の中、掘削作業等を行っている。また、権益争いのいち結果として、地中海をはさんで反対側にある北アフリカの国・リビアの暫定政府との間で、排他的経済水域(EEZ)の境界を定める協定を2019年11月に締結している。それにより、一方的ではあるが、両国のEEZがちょうどEastMedの敷設ルートを阻害するような格好となっており、これについて、利害の合わない関係国から批判されている。他方、本件は、現在完成が期待されている南部ガス回廊(SGC:Southern Gas Corridor)と利害関係にあり、SGCの大動脈たるTANAPが通るトルコとしては、TurkStream含め、関係するインフラへの投資によって、天然ガスの受け入れや経由・送り出しのための環境整備を着実に図ってきたこともあるため、本件が、トルコにとって快く受け取れないニュースであろうことは容易に想像される。

詳細は以下を参照のこと。

【 参照元 】
Forbes | New Pipeline Deal Gives Europe Access To Eastern Mediterranean Gas Reserves, Angering Turkey
Sputnik | Cyprus, Greece, and Israel Sign Gas Pipeline Mega Deal Amid Tensions With Turkey
IGI Poseidon | EastMed
Globe+ | 近内みゆき:東地中海で今、何が起きているのか 天然ガスがもたらすせめぎ合いを読み解く